団地の縁側ができる前の事。
受付機能のみの事務所にて作業をしていると
20時頃初老の男性がお店に来られました。
「面白いサービスをはじめたなー。
注文する気はないんだけどさー、ちょっと見学にきたよ。」
お客様との雑談は10分ほど続きました。
そんな中。
「俺の実家は新潟なんだけど、もうこの年じゃ行く事もできないよ。
本当に残念だ。いいところだぞー。」
とお客様がおっしゃいました。
そこで、最寄りの駅を教えて頂きグーグルマップで表示しました。
「あっそうそうその駅!やっぱパソコンはすげーなー。いいところだぞー」
と笑顔で会話はすすみました。
その後私はストリートビューで駅の画像を何も言わずに表示しました。
すると、
「!!!やややっっっ ちょっとまってくれっ なんだこれはっ!!!」
お客様はとんでもなく驚かれ、椅子からずり落ちました。
「兄ちゃん。びっくりしたなー ちょっと待ってろ!」
そう言い残すとお客様はお店から小走りで出ていき、
しばらくすると缶ビールを片手に戻ってきました。
今度は私が慌てました。
「おじさんっ 飲食店じゃないからビールはだめですっ!」
というのも束の間。プシュッ と景気のいい音がお店に響きました。
私は苦笑いをしながら会話を続けました。
お客様の実家は由緒正しい旅館で、お客様が小さい頃は
力道山が泊まりにきて町中大賑わいだったそうです。
そこで私はお客様から旅館名を伺い、当時の旅館のデータを画像検索しました。
するとそこには人が沢山集まっている旅館の画像がモノクロで表示されていました。
お客様はほんの数秒無言になった後、涙を流しながら
残ったビールを飲み干すと口を開きました。
「兄ちゃん。本当にありがとう。これだよ。
俺の想い出の旅館だよこれは。
本当にありがとう。ありがとう。」
その後、力道山との想い出を話し、
お客様は私と固い握手をしてお店を出られました。
結局1時間半ほどの会話となりましたが、
そこには難しいサービス名や技術の話は一切ありませんでした。
存在したのは 昔の温かい想い出 と 今の温かい会話 でした。
インターネットサービスの力と会話の力を改めて感じた夜でした。
モノクロの写真をみつめていた時のお客様の澄んだ瞳は
今でも鮮明に記憶に残っています。
御用聞きのreboot ~会話で世の中を豊かにする~